灘の酒造り唄について

酒造りのための醸造場を「蔵」と言い、そこに働く人を蔵人と言います。ここの最高責任者を杜氏と言います。

ひとつの蔵には約20人の蔵人が杜氏の指揮下で働きます。蔵人達は郷里の丹波・但馬などで秋の刈り入れを終えると、先遣隊がまず蔵に乗り込みます。酒造りの桶・道具などを洗う作業が始まります。秋洗唄(桶洗い唄)が蔵から聞こえて来ます。そして春まで杜氏さんを中心に寝食をともにして酒造りにはげむのです。

「酒は生きもの、人を待ってはくれない」と古来より言われています。酒造りは醸造菌を冬期の低温を利用して醗酵を制御し、よい酒を造るのですが、何しろ相手は生きものです。作業は夜昼なく醗酵の進行につれて行われます。櫂を使っての撹拌作業もその時の気温や醗酵の進み具合などで時間が違ってきます。これを指示するのが責任者の杜氏さんで、作業中ずっと唄いつづける酒造り唄の唄い出し唄い終わりの文句を杜氏さんが唄うことにより指示します。

灘の酒造り唄の歌詞には一貫した意味はありませんが、次々と語呂をひっかけた連続ものになっていて、その一連を唄い終わると同時に作業が完了する様になっています。これは作業能率の向上とか疲労の軽減などの意味と別に、作業時間を計る時計の役割を果たすものです。これが灘の酒造り唄の大きな特色であります。

蔵人さんの採用試験には、まず唄を唄わせられたそうです。「唄が上手だったらたいてい採用されました」と杜氏さんは冗談のように言っておられましたが、酒造りと唄とは切り離せないものです。

酒造り作業と酒造り唄

秋洗い唄(桶洗い唄)

丹波地方から秋の獲入れを終えて蔵入りした酒造りの人々(蔵人さん)が最初にする作業は、酒造りに使用するすべての桶や道具を熱湯で殺菌し、竹を細かく割った「ササラ」で何回もしごき洗いして乾かし上げる作業です。このとき唄われるのが「秋洗い唄」です。蔵人さん達は故郷を後にしてきたばかりですので唄はやや哀調を帯びています。

もとすり唄(山卸し唄)

この唄は酒造り唄の中では一番知られている唄です。蒸し米と麹、それに宮水を半切桶に入れ物料が平均に水をよく吸ってから「もと」(酉に元と書きます)すりにかかります。昔は時計がなかったので唄を何節唄えば次に移るという方法がとられました。

もとかき唄

その日いち日かかって摺りあげた「もと」(酉に元と書きます)は、醗酵のため温度が高いので、真夜中の寒冷気を利用して「もと」の温度を下げます。初夜の9時・夜中の12時・朝の3時というように3回にわたって櫂で撹拌するときに唄います。

水汲み数取り

水係は経験の浅い若者が多く、水汲みは単調な重労働です。数を間違わないように面白い洒落好きな文句から、当時の世情に触れることができます。

水添え唄

出来上がった「もと」を中型の桶に移します。その上に先ず水を入れます。これが水添えです。この後に蒸し米が入れられます。初添えです。

杜氏祝詞

人事を尽くして天命を待つという言葉がありますが、澱粉から糖分、それがアルコールを造り出す醗酵の仕組みは神に祈るしかありません。

朝の謡物

留添え荒櫂とも言われます。最終の留添えで投入された蒸し米、麹は、その翌朝には大桶の底に固く沈殿しています。早朝櫂に力を込めての撹拌作業です。平成10年秋、歌詞だけ残っていて唄い方の分からなかったこの唄が、偶然丹波で発見されました。

風呂上り唄

かなり日が経ち熟成した「もと」に更に蒸米を入れ、それに宮水を加えて物料を増します。これを「添」と言います。これには初添仕込・仲添仕込・留添仕込の三段あります。「添(そえ)」の作業を終えて蔵人達が夕食をとり、入浴も済ませてからの作業唄ですので「風呂上り唄」と言われています。この作業は物料がやや重く、醗酵糖化の進み具合を頭役(杜氏補佐)の人がよく見て唄い初め又唄い終ります。

三本櫂

風呂上り唄の後唄として唄われる唄で、物料もゆるんでやわらかくなっていますので、少しテンポを早めて三拍子の軽快なリズムになっています。

仕舞唄

この唄は留仕込の翌日、蔵人達が1日の仕事を終えてこれから仕舞うと云う前に、もろみの醗酵調節のため櫂入れ作業をするときの唄です。この作業が終るとお酒はだいぶ出来上がっており、その後しばらくねかせて、あとは酒しぼりを待つのみです。

試聴サンプル(MP3ファイル)

秋洗い唄(1.6MB)   水添唄(1.6MB)